梅もどき
五濁悪世

 今年もあとわずか、時の流れは速く、止めることもできません、今年もばたばたとあわただしく過ぎ去っていく思いです。

 今年も、いろいろなことがありました。アトランタのオリンピック、オリックスの優勝は明るいニュースでしたが、住専問題、エイズ薬害問題、病原性大腸菌O157や食中毒事件等が大きな問題になりました。また、いじめによる小・中学生の自殺、老人の孤独死、凶悪な強盗殺人事件、交通事故、火災なども後を絶ちません。何か混沌とした世相ですが、このような現象は、今に始まったことではなく、形こそ変われいつの時代にもあったことでしょうが、「いのちと人権」を無視した予想もしないいろいろな事件が多すぎます。まさに『阿弥陀経』の中にも説かれている五濁悪世の観がします。

 五濁とは、劫濁(こうじょく)〈私たちの願いがいつも踏みにじられる時代の濁り〉、見濁(けんじょく)〈みんな自分が正しくて、他人が間違っていると思い込んでいる考えの濁り〉、煩悩濁(ぼんのうじょく)〈自分の都合のよいようにしか物事を見ることができない迷いや欲望の眼の濁り〉、衆生濁(しゅじょうじょく)〈みんなのことを考えず、自分の目先の利害にだけにこだわる人間が人間らしさを失う社会の濁り〉、命濁(みょうじょく)〈いのちの尊さを忘れ、自分のいのちも他人のいのちも粗末にするような濁り〉の五つを言います。

『正信偈』の中に、

如来所以興出世
唯説弥陀本願海
五濁悪時群生海
応信如来如実言

の四句が出て来ます。これは、「如来がこの世に現われてくださった願いはただ一つ、阿弥陀如来の広大な本願を説くためである。だから、五濁悪時に雑草のように泥にまみれて生きるほかはない方々よ、釈迦如来が大きな真実を説いてくださった、そのみことばを信ぜよ、こう呼びかけておられるのです。」(寺川俊昭先生『講話正信偈』)といった内容です。特に、あとの二句は、五濁悪世に流れ流れて、私はどこへ行くのでしょうか。そのような流転する私に、如来を信じ、よき人に遇え、そしてそのよき人が語ってくださる大きなまことの教えを聞きなさい、それが私を生かす力となってくださっていると教えていただいているのです。

「煩悩具足の凡失、火宅無常の世界は、よるずのこと、みなもって、そらごとたわごと、まことあるることなきに、ただ念仏のみまことにておわします。」(『歎異抄』)

のお言葉を改めて噛みしめた思いがします。

(平成8・11・20)

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Last modified : 2014/12/10 3:21 by 第12組・澤田見(ホームページ部)