こでまり
映画 『生きる』

 昭和27年に東宝創立20周年記念映画として上映された黒澤明監督の『生きる』を難波別院の同朋会館で観賞する機会に恵まれました。

 何しろ、43年前の、志村 喬さん主演の白黒の、全体に暗いムードで運ばれるドラマですが、人間は何のために生きるのか、真の生き甲斐とは何か、(簡単に答えを出せない大きな問題ですが)、人間が本当に生きることの意味を考えさせる優れた作品でした。荒筋をご紹介してみましょう。

 ある市役所の市民課長 渡辺勘治は、定年間際のある日、自分が胃癌で余命いくばくもないことを知ってしまいます。

 早くに妻を喪くし、男手ひとりで育てあげた一人息子は、目下新婚早々で、彼の心情を察してくれそうにもありません。

 失意のうちに街をさまよっていた彼は、近く彼の課を辞めていくという若い女子職員に出逢い、30年間精勤に勤めた彼の役所勤めが「ミイラ」のように、ただいたずらに時間をつぶしているだけの毎日であったことを思い知らされます。死に直面してすでに53歳、彼に残された時間はありません。

 「課長さんも、何か造ってみたら?」という彼女の明るさに励まされて、地元から陳情のあった下町の汚水溜りの湿地を改善し、そこにささやかな児童公園を建設することに人生最後の数か月を賭けることにしました。

 根気よく公園課や工事課へかけ合います。地上げ屋の庸ったヤクザの脅迫にもおじけることなく、助役にも捨て身でぶち当たり、公園の工事が進められることになります。

 とうとう完成した公園のブランコに揺られながら、小雪のちらつく深夜、

 いのち短し 恋せよ乙女
 紅き唇 あせぬ間に
 熱き血潮の 冷えぬ間に
 明日の月日は ないものを

で始まる『ゴンドラの唄』を低く口ずさみながら、彼は幸せそうに息絶えて逝きます。

(平成8・3・18)

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Last modified : 2014/12/10 3:18 by 第12組・澤田見(ホームページ部)