問い

私の娘は短大生ですが、以前からノイローゼ気味で、最近学校へも行かなくなりました。病院で診察してもらっても特に悪いところはなく、あるお寺ヘ参って相談したら、先祖の中に事故で亡くなった人がいて、その悪い因縁が娘に集中しているとおっしゃるのです。そんなことがあるのでしょうか。

(56歳・主婦)

答え

 娘さんがノイローゼ気味で健康のすぐれない原因が、先祖の悪因縁のせいではないかと戸惑われているようですが、それはまったく根拠のない迷信です。あるお寺に相談されたとのことですが、そのお寺の住職さんはとんでもない方だと言わざるをえません。すくなくとも浄土真宗のお寺の住職さんではないでしょう。世の中には宗教を装って、ひとの弱みにつけこみ、まことしやかに相手の不安をかきたてて、追善供養や祈祷、お払い等を勧めて金を取るといった似非宗教(えせしゅうきょう)がワンサとあります。お互いに困ったときは藁をもつかむ気持ちが動きますが、そんなときにこそ真実なる教えに耳を傾けなくてはなりません。

 仏教は因縁の道理を説く教えで、この世の全てのことは因(原因)と縁(条件)によって生ずべきものが生じ、滅すべきものが滅するという道理(事実)に目覚め、その道理に随順する外に救いはないことを教えます。

 俗に因縁がつくとか因縁を切るとかいうのは、何か実体的に取りつく祟(たた)りのようなものがあって、付いたり切ったりできると考えているのであって、本来の因縁の道理にうなずくことができれば、そのような実体的な祟りはなく、因縁のままに受け止めて超えてゆける道が開けてくるのであります。

 あなたが、先祖がわれわれを苦しめ悩ますと考えておられるなら、それはまったく因縁の道理に暗いためであります。娘さんの悩みは娘さんご自身の内に何か原因があり、その取りまく事情や環境の条件が重なって悩んでおられるのであろうし、またその娘さんを縁として悩んでおられるのはあなた自身なのです。まずその事実に目覚めてください。

 目覚めてみれば、私を苦しめ悩ますのは先祖の悪い因縁などではなく、私自身であったと気づいてくださることでしょう。

 先祖は、私にいのちを与え、私が力強く生きることを願いに支えてくださっている、私のいのちの歴史であり背景であります。正しい教えに耳を傾け、お念仏を申さずにおれない私になれば、先祖をはじめ多くのものによって生かされ、護られ、育てられている我が身に気づかせていただけます。母親である貴女がそうなれば、愛しい娘さんの心も開けてくるのではないでしょうか。

(本多惠/教化センター通信No126)

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Last modified : 2014/12/09 6:16 by 第12組・澤田見(ホームページ部)