問い

仏教では輪廻転生ということを言わないと聞きましたが、ほんとうですか。

(60歳・男性)

答え

 輪廻転生ということは仏教教典にもありますが、それを肯定はしていません。輪廻転生とは有情(うじょう・生きとし生けるもの)は生まれ変わり死にかわりしているものだということです。したがって人間も現在の生が終わったら、また次の生を受けるのだから、次によりよい生を受けるように、今生に善いことをしておこうと努力するわけです。

 ヒンドゥー教徒の多いインドでは、現在も輪廻転生を信じて生きる人がほとんどだと聞いております。二千五百年ほど前の釈尊在世のころもそうであったようです。その時代にあって釈尊は、よりよい来世を願っても、それはしょせん六道(地獄・餓鬼・畜生・修羅・人・天)といわれる迷いの世界を経回(へめぐ)るにすぎないということを明らかにされたのです。そのことを象徴的な表現で伝えられるのが、釈尊が誕生されて七歩歩かれたということです。七歩とは六道を越えられたということです。

 さらに釈尊は三十五歳に覚(さと)りを開かれた時に、「所作己作、自知不受後有」と言っておられます。これは「成すべきことはすべて成しおえた。もう何も思い残すことはない、後の生を期待する必要もない」ということです。このことが釈尊の自覚内容であり、万人共通の真実なのです。

 考えてみますと、来世を思い、よりよいものに生まれ変わろうと思うのは、今自分が生きていることに満足していない証(あかし)です。過去に後悔の思いをいだき、未来に夢を見て、今生きている現実を見失って生きている、そのような人に対して、現に生きていることのスバラシサ、そしていのちあることの尊厳性を教えられるのが、釈尊の説かれた仏教です。「天上天下唯我独尊」とは、まさにそのことを宣言されたものです。

 私たちも一刻一刻を大切に生き、一日一日を完全燃焼しつつ生きたいものです。

(本多惠/教化センター通信 No159)

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Last modified : 2015/02/11 23:23 by 第0組・澤田見(ホームページ部)