あさがお
幽霊といっしょ ?

 8月6日の朝日新聞の文化総合面に、「笑う妖怪、うらめし幽霊」が掲載されていました。

 「妖怪ばかり、なぜもてる ? 夏といえば幽霊。ところが、人間臭い愛憎ドラマヘの関心が薄れたせいか、近頃どうもぱっとしない。変わって人気を博し、浮かれ出てきたのが妖怪たち。」と、大学の先生と、研究者がそれぞれ幽霊不振の背景と、妖怪たちの魅力について語っていました。幽霊派の先生は、「今、幽霊への関心が薄れたのは、世間の人たちが自分たちの陰の部分から目をそらして生きるようになった」と書いていました。

 それにしても、昔、子どもの頃に歌ったり聞いたりしたことのある唄に、尻とり唄の「ダイヤモンド」があったのを覚えておられる方もいらっしゃると思います。

「ダイヤモンド高い 高いは通天閣 通天閣怖い こわいはゆうれん ゆうれんは青い 青いは坊さん ぼんさんはすべる すべるは氷 氷は白い 白いは兎 うさぎは走る はしるは別当 別当はえらい えらいは学者 学者はでける でけるはでんぼ でんぼはうつる うつるは鏡 かがみは割れる われらは日本男子なり」(山野良子『わたしの大阪遊び唄辞典』)

 「幽霊の 正体見たり 枯れ尾花」

 暗い夜道を、恐ろしさと不安におののきながら一人の女の子が歩いている。突然、目の前にフワッと白いものが……。

 「ユウレイが出た! !」

 あくる日、そっと見に行ったら、枯れすすきの穂が風に揺れていた。

 ユウレイがおるのではありません。恐ろしさと不安が枯れすすきの穂に投影してユウレイが生まれるのです。

 鬼や悪魔は、自分の心の影です。鬼の本籍は私の心であり、鬼の食糧は、貧欲(とんよく)、瞋恚(しんに)、愚痴(ぐち)なのです。

 皆さんは幽霊を見たことがありますか。「見たことがない」というほうが健康ですね。

「見たことがある」という人がいたら、それは夢の中か、絵に描いたものでしょう。絵に描いた幽霊は、怨念のこもった恐ろしい眼をしています。

「三方正面の図」といって、どこから見ても自分だけをにらんでいるように描いてあります。だから、その絵を見ていると、上下から見ても、左右から見ても、自分だけをにらんでいるように見えます。ちょうど「モナリザ」の絵が、どこから見ても正面を向いているのと同じように。

 そこで、絵などで見る幽霊というものはどういう姿をしているかというと、まず、長い髪の毛があります。これをおどろ髪と言います。パーマネントや短髪にしている幽霊はいません。おどろおどろしく、後ろに引っ張られるような長い髪。これが幽霊の一番目の特徴ですね。

 これは、何をあらわしているのか。これは、済んでしまったことに対する後悔がなかなか忘れられない。あきらめきれない。「しまった」「あの時、ああしていたらよかった」「あの時、ああしなければよかった」と、事実は十年前に終わっていても、心だけが十年前のことが気になって忘れられない、いつまでも悔やむということはありませか。

 また、何年か前に、誰かからグサッと胸に突き刺さるような言葉を言われた。その後、その人が亡くなった後でも、悔しさ、恨みだけが何年も持っているということがあるでしょう。まことに執念深いものです。そのような経験はありませんか。

 それは何かと言うと一般的には後悔です。仏教の言葉で言うと執着です。誰にでもある世界です。どうすることもできないとわかっていても、後悔はなかなかとれません。これを、後ろに引っ張られるような長い髪であらわしているのです。いつまでもとれない後悔、執着です。

 二番目の特徴は、手を前に出していることです。

 これは何をあらわしているのでしょうか。これも、皆さんにも経験があるのではないかと思うのですが、まだ来ていない先のことを、あたかも来たかのように感じて不安に思ったり、心配したりすることです。

「頭が惚(ぼ)けたらどうしよう」、「苦しまないで、死ねんものやろか」

と、まだ来ない先のことを、イライラ、くよくよすることがありませんか。これも、人間の愚かさです。そういうことを何と言いますか、後悔の反対で、取り越し苦労、不安です。私にも、そういう経験がいくつもあります。

 そして、三番目の特徴は、足がありません。足がないということは何をあらわすかというと、「今に、足がついていない」ということなのです。本当に人間はそうですね。人間は、「今」しか生きていないのです。その「今」に足がどっしりとついていない。

 過去に執着し、未来に不安を抱き、そして「今」に足がついていない。「自分の足元を見ない者を幽霊という」と言われますが、幽霊の姿は、過ぎた日に後ろ髪を引かれ、明日を夢見て、今日という日、わが身の現在の足元を見失った人間の姿であると言われます。

 このように見て来ると、私たちの生き方はまさに幽霊といっしょですね。

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Last modified : 2014/12/10 3:20 by 第12組・澤田見(ホームページ部)