貴方が変われば/No.3

2007年4月第1日曜日深夜の事、ネットサーフィンをしていたら、「時自在映像検索」サイトを見つけた。
不可思議な世界に迷い込んだ。使い方を読んでみると、年代と地域を入力するだけで、映像で歴史が見られるサイトであった。当初私は、年号を2011年、場所を京都に設定して親鸞聖人750回御遠忌を見学しようとして止めた。それよりも年号を2261年として親鸞聖人1000回御遠忌の方が、皆さん断然エキサイトしませんか!
早速入力しクリックするとPC画面が京都駅上空から映りだした、マウスでカメラの移動が出来る仕組みだ。京都駅には線路が無くリニアモーターカーの新幹線が映った。どうもこれは本物の未来映像らしい。
マウスでカメラを本願寺に向かわせると、当たり前だが750回忌に葺き替えた瓦が古びているのが見えた。しかし静かだ。山門に行くと仏教歴史博物館受付とあり、入場料を取っている。その横に大きな看板があり、テーマ「親鸞没後1000年、真宗の歴史を展示」というのが見えた。理解できない言葉を話しながら、多くの見物人が入場している。まるで日本ではない別の国に来たような感じだ。
驚きながら中に入ると、掲示板があり「真宗が栄えた当時は、毎日読経と法話が行われていました」と書かれてある。どうなっているのやらと思っていたら、ガラスケースに入っている親鸞聖人の前に他の見物人とは違い、正座し合掌している老婆が一人、泣きながら何かを呟いている。そばにカメラを持っていき、音声を最大限にして聞いてみた。すると老婆は「こうなることは知っていたのに、あの時代の僧侶達が、親鸞聖人の御教えを伝えなかったから、京都が無くなった」。その後、聖人さま申し訳ない、ナムアミダブツと聞こえた。そばに「貴方が変われば」というチラシが落ちていた。老婆が一瞬カメラ目線で不気味に笑ったのを見て、私は恐ろしくなって、カメラのスイッチを切ってしまった。
今見たものは一体何なのか、「時自在映像検索」サイトに帰って説明書を読んで見たら、下記のようなお知らせと注意が書かれていたので、エッセイの最後にそのまま書き残すことにしよう。
-時自在映像検索サイトからの一部閉鎖のお知らせ-
当サイトご利用のお客様が、御自身の未来を見られることにより、未来への弊害が明らかになりました。結婚率・出産率の低下、自殺者の増加などにより、当サイトの未来映像配信は今日を持って閉鎖致します。引き続き過去の映像は配信中ですが、歴史学者からのクレームも多く、近日中に閉鎖となる予定です。
当サイトをご利用下さいました方々にご注意申し上げたいことは、過去は変えられませんが、未来につきましては、変更の可能性は十分にあります。現在の世界情勢・人間の思考を総合し判断を下した未来映像配信ですので、「貴方が変われば」未来を救えます。自分に向き合い、人生から逃避しないで下さい。(サイト管理者)

「カット!今の老婆の演技は最高だったよ」
「監督、私、最後にちょっと笑っちゃいましたよ」とカツラをとりながら娘が言った。
「大阪から来られた『銀杏通信』の皆さん、お世話になりました。ご先祖様もさぞかし驚いていることでしょうね」と依頼した本山の方が笑った。
それを受けて「これくらいショッキングな演出をしないと、先祖の方も危機意識を持って真宗を学ぶことや、また布教活動もしないでしょっ」と、監督が言うと皆が笑った。
それでは皆さん、宗祖親鸞聖人1000回御遠忌にお参りに行きましょう!
スタジオの扉を開けると、新しく瓦を葺き替えた立派な御堂が見えた。

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Last modified : 2014/01/10 21:08 by 第12組・澤田見