薔薇
後生の一大事

 蓮如上人は、『御文』の中で、特に「後生の一大事を心にかけて」とくり返して教えられています。

 後生(ごしょう)とは、「後世」(ごせ)ともいわれ、今生(こんじょう)・現世に対して言われる言葉です。

 仏教では、死んだ先のことばかり言う、もっと生きている現在のことを教えなくてはと言われます。その通りですが、それでは「死んだらしまいだ」と言って、本当に現在を安心して生きていけるでしょうか。

 この人生は、よく旅にたとえられます。この人生の旅の行きつく先はどこでしょうか、真っ暗闇の世界でしょうか。

 私たちが、国内や海外への旅行に出かけ、珍しい風景を眺め、変わったご馳走をいただき、お土産も買い求めて楽しく過ごしていても、やがて旅行が終わって帰っていく所、つまり、帰っていく国と家がなかったらどうでしょうか。楽しく、安心して旅行をしておられないのではないでしょうか。

 帰る国があり、帰る家があるから、帰りを待ってくれている人があるから、旅行も楽しく、安心してできるのです。

 「後生の一大事を心にかけよ」とは、人生の旅を終えて、安心して帰っていくことのできる世界、故郷が明らかになっていますかということなのです。

 この世は苦しいところ、辛いことの多いところだから、死んでからよい世界に生まれて幸せになることを教えるのでは決してありません。帰るべき世界がはっきりすると、只今の現在を安心して精いっぱい喜びの人生として生きることができるのです。

 毎年、平均寿命が発表されます.昨年は、男性が76.57歳、女性が82.98歳でした。だれもそれまでは生きられる、いやもっと長生きしたいと思っています。しかし、この人生の旅は、必ず終わりが来ます。いつ終わるかわかりません。

明日終わるかも知れません。そのように考えていくと、後生は、遠い先の話ではなく、今日の只今のことなのです。

 「後生」とは、「最後の生(しょう)」という意味だと教えてくださった人があります。また、「後生」とは、「もう後がないぞ」と言っている人もあります。実は、だれにとっても、今日、只今が「後生」、つまり最後かも知れない大切な一瞬一瞬の時を生きているのではないでしょうか。「一大事とは、今日、只今の心なり」です。

(平成8・8・1)

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Last modified : 2014/12/10 3:20 by 第12組・澤田見(ホームページ部)