問い

先祖を大切にさえしておればよいと思い、お仏壇に毎日お詣りしていますが、その他に別に仏教なぞ聞く必要はないと思いますが……。

答え

 先祖を大切にするということは、どういうことでしょうか。たしかに先祖あっての私ですから、粗末にすることは人道にも反するに違いありません。

 ある人が、「私は何よりも先祖のお敬いを大切にしています。先祖のおかげで、土地や財産も残してくださり、健康な身体ももらい、現在の生活を幸せに守ってくださる。ご先祖を粗末にしたら罰があたります」と言われました。

 この話を聞いていた別の人が、こんな質問をしました。
「それでは、もし親が借金を残し、家や土地が知らぬ間に他人名義になっていたとしたら、あなたはそれでも先祖に感謝できますか」

 尋ねられた人は答えられませんでしたが、おそらく親を憎むに違いありません。先祖を大切にしているといっても、自分の都合のよい限りにおいてでありましょう。

 その先祖を大切にするという心根は、「我が家さえ幸せなら、自分だけがよければ」といったちっぽけな考えの持ち主になってしまっていることが多いようです。ご先祖を大切に考える気質はうるわしいものですが、自分達だけの幸せしか考えられなくなっていくならば、そういう子孫をご先祖は喜ばれるでしょうか。敬うという形でわが生活に先祖を取りこみ、自分の都合で先祖や神仏さえ利用しかねない私達に、現実の生活に身を据えつつ現実を超えよという教えこそが本願念仏の教えなのであります。

 先祖の願いを聞き、親の願いに生きることこそが、本当の意味で先祖を大切にすることなのです。先祖や親は私たち子孫に何を願ってくださっているのでしょうか。自分達だけの幸せを願ってくださっているのでしょうか。自分達だけの幸せを願うということではなく、一言で言えば「どんな苦難の中にあっても、人間として生まれてきてよかった。生命あることはスバラシイ」と言える人間になって欲しいということに尽きるのではないでしょうか。

 そのような人間の本当の願いに目覚ましめる教えが仏教です。ですから、仏教を聞くことによってのみ、本当に先祖を大切にする道がはっきりするわけです。

(本多惠/教化センター通信 No.36)

Pocket

Last modified : 2014/12/09 6:16 by 第12組・澤田見(ホームページ部)