問い

これまでお坊さんの法話を何度も聞いていますが、あの世とか先祖の霊魂の話などあまり聞いたことがありません。仏教では、お墓に参ったり先祖の霊を慰め亡き人の声を聞かせていただくことは大事にしないのでしょうか。私はあの世とか霊魂はあると思いますが、違いますか。

(65歳・男性)

答え

 「あの世とか霊魂はあると思います」とおっしゃいますが、人によっては「あの世も霊魂もない」と言われます。仏教では「有無(うむ)の邪見(じゃけん)」だと教えています。有るというのも無いというのも、人間の間違った見解であって、偏見・独断であると教えられています。親鸞聖人も、龍樹菩薩(りゅうじゅぼさつ)が明示されたこの仏教の教えを高く評価されております。

 「お墓に参ったり先祖の霊を慰め、亡き人の声を聞かせていただく」とおっしゃいますが、事を分けて申しますと、まずお墓はいわば記念碑です。ですからお墓にお参りして亡き人を偲ぶということは大切なことでしょうが、霊を慰めるということはどういうことでしょうか。霊を慰めなくてはならない何ものかを感じておられるのでしょうか。

 「亡き人の声を聞かせていただく」と言われるのは、何を聞くというのですか。世にいう霊媒師を通して死者の声を聞くようなことを思われてのことでしょうか。もしそのような意味であるならば、妄念妄想です。死者の霊魂がどこかに居て、という考えは偏見独断と言わざるをえません。見た人は一人も無いのですから。もし見たというなら幻想以外のなにものでもありません。

 しかし、亡くなった人は現に生きている私たちとは無関係ではないでしょう。事あるごとに思い出しますし、親に死なれてあらためて親に遇うたということもあります。亡くなった先祖は霊魂とか亡霊とかといわれる、えたいの知れないものとして存在するのではありません。

 仏教では、諸仏として現に私たちに大切なことを教えてくださると教えられています。金子大栄(かねこ・だいえい)先生は「亡くなった方は、拝まれるものとなって、拝むときに、拝む人の前に現れる」と教えてくださいました。

 仏は常にましませど
 現ならずぞ、あわれなる
 人の音せぬ暁に
 ほのかに夢に見えたもう

 読み人知らずの歌ですが、あじわい深い響きをもっているではありませんか。

(本多惠/教化センター通信 No149)

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Last modified : 2014/12/09 6:16 by 第12組・澤田見(ホームページ部)