問い

夫はガン告知を受け治療に励みましたが、病状は悪化。いつしか不安は恐怖心に変わり、家族で在宅治療に切り替えて看取りました。最期はお念仏しましたので、浄土に還ったと思いますが、本当にこれでよかったのでしょうか。

(62歳・女性)

答え

 告知されたガン患者と一緒に生活することは、おそらくその人の人生の中で最も辛いことでありましょう。

 かつて柳田邦男が、「突然死よりガン死を」(『死ぬための生き方』新潮社)と言いました。それは突然に死を迎えると、自分の人生を省みることなく終わってしまうということがあるからです。その点、ガンという病気は命終わるまで意識が鮮明につづき、告知されてから自分の人生を総括し、納得して命終わることだって出来るということでしょう。つまり、「ガンを人間に与えられた自己完成あるいは自己実現の一つの機会としてとらえよう」(同)というのでありましょう。

 告知されて、しばらく不安な状態が続いていたということは、抗ガン剤などの治療により少しよくなると、もしかしたら治るのではないだろうか、しかし副作用などでかなり苦痛もある。そんな状態が続くと、その人は不安になるようです。自己判断がつかず、自分の思いの中で悩むため、不安な状態が続くのでしょう。しかし治療の甲斐もなく病状が悪化して行くと、死期が近づいたのではと、不安が恐怖心に変わるのでないかと思います。辛い事実ではありますが、そのような不安は人間の思いで取り除くことは出来ませんし、不安から逃れることも出来ないのです。

 安田理深先生が、

〈不安〉ということが、人間を実存に呼び戻すんじゃないですかね。本願の知恵が〈不安〉という形で人間にきているんです。不安が如来なんですわ(『不安に立つ』東京新聞出版局)

と言っておられます。不安が、人間を現実の在りのままの姿に呼び戻す。それは如来の本願の智慧の促しなのだと言われるのです。不安を引き受け、不安に立つ。恐怖心を克服する道は、それしかないと思います。それがお念仏なのです。

 ガンを告知され、あともう僅かの人生だという人には、できるだけ家族が寄り添ってあげることが大切だと思います。そして一緒にお念仏申して、人生の最期を迎えたいものです。

 あなたと共にお念仏申されたご主人は、還浄されたのです。

(教化センター通信 No212)

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Last modified : 2017/02/28 20:31 by 第0組・澤田見(ホームページ部)