子どもたちの見本

 さて、この教務所からのパンフレットといいますか、このチラシにも、「どうして人を殺してはいけないのという問いに、答えることができない」というふうに書いてありますけれども、私たちは、実は子どもにこんなことを答える必要はないんです。このことは、私が私に答えなくてはならないんです。我々大人が、自分に答えていけなければならない問題です。どんな場面でも、私たちが私たち自身の問題を他にすり替えてしまっているのではないか、ということを最近大変思います。

 私たちは、何となくイメージとして、子どもというのは未来で、私たち大人が現実だと、このように思っています。大人が現実で子どもが未来だ、と。このように大人の側から思っておりますけれども、子どもの側からは逆なんです。大人が未来なんです。

 今から二十数年前、『親を見りゃ俺の将来知れたもの』という本が出ましたね。ああいうもんだと、大人の姿を見ながら、子どもは自分の未来ができあがっていくわけですから、子どもにとっては私たちが、大人が未来なんです。現に先に生まれているわけですから。それは人間だけではありません。あらゆる動物が、みんな大人を見ながら育っていくわけです。そのとき私たち大人が、自分の人生に責任を持っているのか、と。あるいは、これまでずっと聞いてきた本願念仏の教えというものに安心してですね、自分の人生を尽くしているのかどうか。そんなことが問われているのではないかと思うんです。

 ですから、いのちということを考えたときに、今はよく、「いのちが大切だということがわからなくなっている」と、このように言いますけれども、それでは、本当にいのちが一番大切かといいますと、「そうだ」とは答えにくいのです。

 このように申しますのは、二週間くらい前でしたか、鹿児島教区で蓮如上人の御遠忌が勤められましたが、その御遠忌のテーマは「いのちより大切なもの」というのです。私たちはいのtが一番大切だと思ってきているわけですが、鹿児島教区はあえて「いのちより大切なもの」というテーマを出された。そうするとですね、一番戸惑って困られたのは、ご門徒さんに聞かれる住職さん方なのだそうです。「いのちより大切なものって何ですか」と、住職さんが門徒さんから尋ねられ、「なかなかうまく返答ができなくて困った」という話をされておられました。

 ところが、その御遠忌の前日に、沖縄の喜納昌吉さんでしたか、歌手の方が歌を歌われたんですが、歌の途中で、三線を弾きながら語りが入るんです。そのトークの中で喜納さんは、「いのちより大切なものってなんだろうね」っておっしゃったそうです。それで、「そういえば、俺のいのちを輝かしているものがあるもんな」というようなことをおっしゃった。それを聞いて、会場の方がハッとされたというような話を先日、宗務総長からお聞きしました。

 私たちがものを考えたり、話をしたりするときには、自分のものさしを使います。私たちは自分の都合と、その都合に合ったものさし以外で、ものを測ることもできませんし、考えるということもしづらい。毎日、毎日お勤めする、この大会の最初にも勤行されましたが、『正信偈』のはじめには「帰命無量寿如来」とありますよね。「無量寿如来に帰命」するのですから、無量っていうのは「あなたのものさしは通用しませんよ」っていうことですよね。「南無不可思議光」ですから、「私たちの、自分の頭の中で説明がついて、それが合理的なこととして納得ができる。そういう世界とは違いますよ」と、教えていただいているわけです。

 しかしながら、なかなかそういうことがわからない。わからないまま、ただ「南無不可思議光」と言っているのではありませんか。先ほどのご和讃の中に、「真実明に帰命せよ」というお言葉がございました。このように称えながら、私たちは自分の主張ばかりしています。自分のものさしで、測ってばかりしています。それが私たちの現実の姿なんです。

 少し話がそれましたので、先ほどの話にもどりますが、私たち大人は、子どもたちからすれば未来だ、ということであります。だから子どもたちは、自分の未来を私たちに見る。あるいは、私たちのさまざまなものを材料として、自分の未来を組み立てていこうとしているんです。それを我々は、引き受けていかなければならない。

 つまり、我々人間は、否が応でも子どもたちの見本なんです。いい見本、悪い見本と、いろいろあるかもしれませんが、見本なんです。高光大船という先生は、「手本になれんけれど、見本にはなれる」とおっしゃいました。見本でございます。見本としてですね、必ずしもいい見本としては、示すことはできないかも知れませんが、ここに一つの人生があるよってことを、私たち大人が示していかない限り、子どもたちは迷い、惑うばかりでございます。

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Last modified : 2014/12/21 22:48 by 第12組・澤田見(ホームページ部)